「平和実現の地球語エスペラント」を学ぼう!
 
岡本三夫
 
 田中克彦著『エスペラント―異端の言語』(岩波新書)に刺激されて、萩原洋子・小林司共著『4時間で覚える地球語エスペラント』(白水社)でその文法を学んだ。実に面白いので、周囲の人たちにも勧めている。合理的な言語であり、文法はドイツ語やフランス語どころか、英語よりも簡単。英語の嫌いな人にもお奨めだ。エスペラントを知っていれば、英語や他の西洋語も易しくなる。
 私がエスペラントを見直すことになった第1の理由はこの人造語の目的が平和と人権だからだ。ポーランド在住のユダヤ人医師ザメンホフがエスペラントを考案した理由は平和と人権だった。彼は母国語以外に人類共通語があれば、異民族どうしが共通語で理解し合えるから、異民族間の争いごとは激減するだろうと考えた。
さらに、ロシア領ポーランドに住む少数民族として、強者の言葉であるロシア語やポーランド語を押し付けられる中で、諸民族間の共通語があれば少数民族も差別されることなく平等な立場で話し合えると彼は考え、少数者の言語権を保障することも念頭におきながらエスペラントを考案した。なんと、私が長年取り組んできた平和学の考えと合致するではないか。不明を恥じている。
 第2は、英語帝国主義とも言うべき英米語偏重の言語状況に対する反省である。私は猛烈に英語を勉強した上、海外生活も長かったから、英語は身についた。だが、英語の氾濫がもたらすマイナス面も考えている。メーリングリストやインターネットは勿論だが、新聞やテレビの国際情報も英語が圧倒的に多い。こんなに英語に浸り切っていると、英語圏の支配的イデオロギーによってすでに洗脳されてしまっているのではないか。『イデオロギーとしての英会話』というD.ラミスの本を思い出す。「始メニ言葉(ロゴス)アリキ」(聖書)というが、言葉(logos)と論理・思考(logic)とは不可分だ。米政府の言いなりになっている政治家・外交官は米語的メンタリティの虜になっていはしないか。エスペラントは脱・米国化を促進し、もっと冷静に世界を見る眼を養ってくれるのではないか―私はそんな希望を抱く。
 第3は、ボケ防止という不純な(?)動機である。昨年、実弟の病死が親族に伝えられたのは2ヶ月後のことだった。訃報をいち早く電話で聞いた姉が忘れてしまったのだ。86歳だが、物忘れがひどい。私自身も要注意だ。以前は、カラオケがボケ防止になるというので、せっせと通ったが、毎回5千円以上は私のような年金生活者には辛い。エスペラント学習によるボケ防止は遥かに安上がりだ。
神奈川県には第2外国語としてエスペラントを教えている県立高校があるという。校名は不明だが、私も同県の横須賀高校出身者なので、興味を抱いた。私は中1でエスペラントを、英語は中2からやることを提案したい。中1なら半年もやればエスペラントで手紙が書けるようになる。こんなに楽しいことはないはずだ。「こどもたちにエスペラントを教えれば、かれらはおもしろがって大喜びでやるに違いない」と田中克彦も太鼓判を押す。
エスペラントの語彙は英語・ドイツ語・フランス語・スペイン語などからの借用語が多く、16の規則を覚えれば良い。例外はない。例えば、「です」はestasのみで、英語のis, am, areように変化することはない。寒暖、明暗、老若などの対立語は一方を覚えれば他方は作れる。エスペラント初歩の知識があれば、ドイツ語やフランス語その他の西洋語への橋渡しともなり、外国語能力の向上にも役立つ。 
さらに、エスペラントの生みの親であるザメンホフの平和思想や日本における初期のエスペランティストだった新渡戸稲造・宮沢賢治・長谷川テルなどが抱いていた世界観に中高生が触れることは、平和な国際社会の実現に向けて彼ら彼女らを教育するためにも大いに役立つ。周知のごとく、熱心なエスペランティストだった宮沢賢治は岩手(いはて)をエスペラント風の「イーハトーヴ」という造語でドリームランドを構想した。
主要国の1つである日本の中高でエスペラントが導入されれば、それが引き金となってエスペラントが多くの国々に広がり、ザメンホフの夢であり、宮沢賢治の夢であり、私たちの夢でもある「戦争をしない、人権を重視し、環境に優しい、自由と平等が特徴である世界平和」実現の可能性に希望を抱くことのできる沃野が広がるのではなかろうか。